IFRS16-リース、借手の追加借入利子率、一括返済借入、分割返済借入、どちらの利率を使うべき?
こんにちは。会計士KOです。
今回もニッチな論点とはなりますが、IFRS16の強制適用に絡めての私見と考察、備忘です。
今回は、IFRS16号において、定義されている借手の追加借入利子率に関する論点となります。
追加借入利子率の算定の際に、しばしば参照する借入金の利子率ですが、当該借入金の利子率の利用において、リースの支払条件との類似性まで考える必要があるのか、すなわち、分割返済と一括返済の借入金があった際に、いずれの利子率を利用すべきなのか、一体どちらでしょうか。
リースの支払い方法との類似性を考えると、分割返済の借入利子率を利用するほうが望ましいとも思えますが、実際には支払期間が一致していれば足りる(=一括返済の借入金の利子率を利用しても足りる)のでしょうか。
以下は、当該論点に対する考察です。
IFRS16号の追加借入利子率とは?
IFRS16号において、
追加借借入利子率とは、「借手が、同様の期間にわたり、同様の保証を付けて、使用権資産と同様の価値を有する資産を同様の経済環境において獲得するのに必要な資金を借り入れるために支払わなければならないであろう利率」
とされています。
-追加借入利子率に関するIFRS16号の定義-
「借手が、同様の期間にわたり、同様の保証を付けて、使用権資産と同様の価値を有する資産を同様の経済環境において獲得するのに必要な資金を借り入れるために支払わなければならないであろう利率」
IFRS16号においては、リース負債の現在価値測定に利用しますね。
IFRS16号BC161にも記載の通り、実務上の追加借入利子率の算定に当たっては、借入金の利子率等を利用・参考にして当該利子率決定とすることが一般的ですが、借入には(A)一括返済借入と(B)分割返済借入がありますよね。
この点、利子率に関しては、(A)一括返済借入よりも、(B)分割返済借入のほうが高いことが通常ではないでしょうか。
冒頭にも記載の通り、この支払条件による利子率の違いを、どこまでリース負債の計算に織り込むかが今回の論点です。
言い換えると、IFRS 第 16 号の借手の追加借入利子率の定義における「同様の期間」に「リースの満期」のみならず、リース負債の支払条件まで反映させるのかという論点となります。
見解として考えられているのは、以下の2つです。
見解 1:リース期間のみならず、リースの支払条件も反映すべきとの見解
見解 2:リース期間のみ反映すれば足りるとの見解
いずれが正しいか、という点について、IFRICにおいて、審議が為されています。
IASBスタッフにおける見解
IASBのスタッフレポートによれば、借手は、IFRS 第 16 号の定義に示されているように、リースの契約条件を考慮し、以下の条件を満たす借入に対して支払う利子率を反映して追加借入利子率を算定する必要があるとしています。
(1) リース期間と「同様の期間」にわたり、
(2) リースに含まれる保証(又は担保)と「同様の保証」を伴って、
(3) リースから生じる「使用権資産と同様の価値」を獲得するために必要な額を、
(4) リースを行う経済環境と「同様の経済環境」で実施する借入
-追加借入利子率に関するIFRS16号の定義-
「借手が、同様の期間にわたり、同様の保証を付けて、使用権資産と同様の価値を有する資産を同様の経済環境において獲得するのに必要な資金を借り入れるために支払わなければならないであろう利率」
また、加えてリースに関する結論の根拠等が記載されているIFRS 第 16 号の BC162 項では、割引率に関する決定事項の背景として、以下の(1)及び(2)の内容が記載されており、借手の追加借入利子率には見積りが含まれていること、及び、借手の追加借入利子率の定義を開発する際の IASB の意図が説明されていると考えたようです。
(1) リースの契約条件を考慮して借手の追加借入利子率を定義することが決定されたこと
(2) 借手は、追加借入利子率を決定する際に、容易に観察可能なレートを参照することを出発点として、IFRS 第 16 号に定義された追加借入利子率を算定するために必要とされる調整を行うこと
これは、BC161 項にも同様の旨が記載されています。
-IFRS16号 BC161項
リースの計算利子率は、多くの場合には、借り手の追加借入利子率と同様となる可能性が高い。これは、両方の率が、借手の信用度、リースの長さ、提供された担保の性質及び質、取引が生じる経済環境を考慮に入れているからである。しかし、リースの計算利子率は、一般に、リースの終了時における原資産の残存価値についての貸手の見積にも影響を受け、税金や貸手しか知らないほかの要因の影響を受ける場合がある。したがって、IASBは、借手がリースの計算利子率を算定することは、多くのリース(特に、原資産がリースの終了時に多額の残存価値があるもの)について困難となる可能性が高い点に留意した。
上記を鑑みると、IASB スタッフは、借手はリースの追加借入利子率を算定する際に、リースの契約条件を考慮し判断を適用するが、その際に容易に観察可能な分割返済借入の利子率をしばしば参照するであろうとしています。
また、そうとはしつつも、IASB スタッフは、IFRS 第16 号の表現は、これをすべてのケースに求めていないと考えたようです。
結論としてどっちなの?という話ですが、基本的には、支払条件まで整合させてね=分割返済の利子率が観察される場合は、当該、分割返済の利子率を使うべきということなのでしょう。
ただし、厳密にはすべてのケースには求めないという少し救済的な結論となっています。
上記を受けて、IFRIC内においては、IFRS 第 16 号では、追加借入利子率にはリース契約に類似する支払条件の借入金の利子率を反映すべきとは明確に記述されていないが、支払条件を考慮することは明らかであり、原則主義的なアプローチの下では追加的なガイダンスを示す必要はないとの意見が多く聞かれたようです。
以上を踏まえた、最終的な決定案としては、以下の通りです。
IFRS 第 16 号における借手の追加借入利子率の定義は、リース料と同様の支払プロファイルを有する借入金における利率を反映するように追加借入利子率を決定することを借手に明示的には要求していない。しかし、委員会は、IFRS 第 16 号で定義されている追加借入利子率を決定する際に判断を適用するにあたり、借手は出発点として、当該リースと同様の支払プロファイルを有する借入金についての容易に観察可能な利率を多くの場合に参照する可能性があると考えた。
(IFRIC Update仮訳より引用)
まとめ
今年から多くの企業が強制適用となったIFRS16、細かい論点でしたが、いったん以上です。
ポイント
★追加借入利子率の計算においては、支払条件まで整合させる可能性が高い
★ただし、すべてのケースには求めないともされているため、現実的に可能な範囲での適用である
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