日経新聞の誤りについて解説する-会計専門用語編-

こんにちは。会計士KOです。

今回の記事では、『日経新聞の記事の誤り』について解説していこうと思います。

日経新聞と言えば天下の全国紙です、私もサラリーマンとして毎日、電子版を拝読しています。

ただ、会計に関する記事がよ~く間違えてたりします。私は腐っても公認会計士ですので、気になってしまうわけです。

注釈
本記事は批判のための記事ではなく、あくまでも記者の方に参考にしていただきたい記事と思って書いています。

また、きっと社会人の方の中には、日経新聞から会計に関する情報を得ている方もいらっしゃると思います。そのような方も、ぜひ誤りに気付いて頂いて、誤った用語を使うことによって仕事で恥ずかしい思いをするようなことはなくして頂きたいと思っています。

(なお、僕自身も日経新聞の購読者なので、これくらいの記事を書いてしまっても良いですよね・・・許してください)

日経新聞の記者さんへ
私は現役の公認会計士です。会計にまつわる記事の専門的なレビューくらいさせていただきますので、気軽にご連絡ください。

では、解説を始めていきます。

そもそもの問題点

日経新聞の記事について、そもそもの問題点はどこにあるのでしょうか。問題点は以下の2つです。

会計専門用語の誤り
会計処理に関する認識の誤り

『日経新聞の記事が誤っているわけがない!』という方もいらっしゃるかもしれませんが、冒頭にも記載した通り、正直かなり間違っています。

例えばですが、コロナ禍における減損損失の会計処理について、日経新聞の公表した記事に対して、日本公認会計士協会が訂正や周知のための2度もプレスリリースを出しているほどです。

今朝の日経新聞の一部報道について

今朝の報道の内容について、当協会が「4月、企業や監査法人に減損の先送りを含めた弾力的な運用を認めていた」という事実はなく、当協会から発したものではありません。
(参考:本年4月3日「昨晩および今朝の日経新聞の一部報道について」
また、このような報道がなされることについて、当協会が事前に承知していたものでもありません。
なお、当協会は、関係各位と連携を密にして、新型コロナウイルスの感染が拡大している現状を踏まえた適切な対処方針について、引き続き検討し、会員・準会員各位に適時に情報発信して参ります。

引用:https://jicpa.or.jp/news/information/2020/20201203ejg.html

また、2点目に記載した通り、会計専門用語の誤りについても散見されます。

細かい点ですが、会計に関する用語に限らず、専門用語の誤りは『ああ、何も調べてないな』、『ああ、何もわかってないな』と思われるポイントですので、ビジネスの場ではやはり留意したいものです。

今回の記事では、会計専門用語の誤りについてフォーカスしてみていきましょう。

誤りの例①:繰り延べ税金資産

では、つらつらと解説していきます。誤りの1点目は以下です。

▼繰り延べ税金資産

会計上と税法上の利益にずれが生じたときに発生する。例えば、貸し倒れの恐れがある債権を損失としたり引当金を積んだりする会計処理をしたとする。会計上は費用が増えて利益が減るが、税法上は実際に回収不能になるまでは損金として扱えない。会計上の利益よりも税法上の利益である「課税所得」が大きくなり税金の支払いも減ら…

引用:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO25874390Y8A110C1EE9000

 

\繰り延べ税金資産/

\そんなものはない/

 

正しくは、『繰延税金資産』です。

送り仮名がないんですね、調べればすぐわかります。

誤りの例②:繰延税金資産≠繰延資産

パルコの3~11月期、純利益2%減 繰延資産取り崩し

商業施設を運営するパルコが25日発表した2019年3~11月期の連結決算(国際会計基準)は、純利益が前年同期比2%減の53億円だった。腕時計専門店「TiCTAC(チックタック)」を運営する子会社、ヌーヴ・エイ(東京・渋谷)の不振による繰り延べ税金資産の取り崩しが響いた。

売上高にあたる営業収益は33%増の880億円だった。11月に新装開業した旗艦店「渋谷パルコ」(東京・渋谷)の再開発で保留床を売却した影響が大きい。「錦糸町パルコ」(東京・墨田)の3月開業も増収につながった。既存店は衣料品が振るわず、テナント取扱高は1%減だった。

営業利益は24%増の101億円。渋谷パルコの固定資産売却益などが押し上げた。

20年2月期通期の業績予想は据え置いた。営業収益は27%増の1141億円、純利益は96%増の66億円を見込む。期末にかけて渋谷パルコなどが利益貢献する。

引用:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53786050V21C19A2DTA000

 

\繰延税金資産は繰延資産じゃねえ/

 

繰延税金資産と繰延資産は明確に異なる概念です。

あたかも繰延税金資産と繰延資産が同じものかのように記載されていますね。こちらも調べればすぐわかります。

誤りの例③:のれん代

のれん代、経営への影響増大 償却負担に減損リスクも
昨年末9.5兆円 大型買収が背景に

M&A(合併・買収)で生じるのれん代の企業経営への影響が増大している。円高を背景に海外企業買収が相次ぐなど、案件の増加に伴いのれん代が膨らんでいるためだ。毎期の償却負担に加え、買収先企業の収益悪化で減損処理を迫られる事例もある。期間損益への影響を和らげようと会計処理を見直す動きも出るなど、のれん代への対処は重要な経営課題になりつつある。

引用:https://www.nikkei.com/article/DGKDZO40168540U2A400C1DT0000

 

\「代」はいらん

 

なぜか急に、のれん「代」という造語を生み出してしまっています。恐らく、のれんの費用処理分である『のれん償却費』を『のれん代』と呼称しているようです。

豆知識
ただし、この『のれん代』という誤用には、少し擁護すべきポイントがあります。バリュエーションの名著と呼ばれているマッキンゼーの書籍「企業価値評価 上下巻」において「のれん代」という言葉が使われているんですね。

これは洋書を翻訳したものですので、日本語訳の過程で良く分からない用語が生まれてしまったのだと思っています。記者の方がこの本を参考にしているかは不明ですが。

誤りの例④:貸し倒れ引当金

三菱UFJフィナンシャル・グループ、最終減益

【最終減益】株価の乱高下で市場部門が苦戦。業務純益は減少。出資先の利益貢献や貸し倒れ引当金の戻り益や、米国の減税の影響で押し上げ、微減益に。

営業費は海外での規制対応がかさみ小幅の増加に。【人事】グループ社長が6年ぶりに交代。平野社長は会長に、三菱UFJ銀行の三毛頭取が4月に社長に昇格。

引用:https://www.nikkei.com/article/DGXLMS8306H1VDX20C19A2000000

 

\貸し倒れ引当金じゃなくて貸倒引当金

\送り仮名に注意しようね!

 

こちらも調べればすぐわかります。正しくは、『貸倒引当金』です。記者さんの中には、どうも送り仮名を付けたがりの人がいるようですね。

このように簡単に調べるだけでも、誤りがたくさん出てきます。。。

さてさて、批判しているだけなら誰でもできます。

今回はちゃんとした解決策を考えていますので、是非参考にしてください。

社会人で会計に触れ、使っている会計用語があっているか不安になった方も、以下をご覧いただければ間違いようがありません。

解決策

さて、以上の解決策として、非常に真面目な方法を3つ用意しています。

解決策①:財務諸表等規則を読もう

有価証券報告書などに利用されている用語については、『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(通称、財務諸表等規則)』という規則で定められています。

この中で、様々なBS,PLに関連する用語が定義づけられていますので、本規則で利用されている用語か否かを調べてみましょう。

財務諸表等規則で使われている用語であれば、記事やビジネスの場で使ってしまって問題ないです。

例えば、冒頭で指摘した繰延税金資産についても以下のように定められています。

(投資その他の資産の範囲)

第三十一条 次に掲げる資産は、投資その他の資産に属するものとする。

一 関係会社株式(売買目的有価証券に該当する株式及び親会社株式を除く。以下同じ。)その他流動資産に属しない有価証券
二 出資金
三 長期貸付金
四 前払年金費用
五 繰延税金資産
六 前各号に掲げるもののほか、流動資産、有形固定資産、無形固定資産又は繰延資産に属するもの以外の長期資産

-財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則-

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338M50000040059_20200612_502M60000002046

解決策②:タクソノミを読もう

解決策①として提示した財務諸表等規則では、実は主要で大まかな用語が決まっているのみです。

財務諸表等規則にない勘定科目は、会社の判断で追加することもできますが、あまりにも勝手な会計用語を使用されては企業間の比較可能性が阻害されてしまいます。

このため、ある程度、同一の概念と判断されるものに関しては同一の勘定科目として標準化する必要が出てくるのです。

勘定科目や属性情報を含めてこのような一連を秩序立てて決めたものがタクソノミです。

タクソノミは金融庁から公表されているので、ご自由にご覧ください。

特に、勘定科目が定められているExcel勘定科目リストは、CSV形式でダウンロードできますので、使いたい科目が当該リストにあるか否かを確認すれば良いと思います。

-2020年版EDINETタクソノミの公表について-

https://www.fsa.go.jp/search/20191101.html

 

解決策③:会計基準を読もう

気になる会計用語があれば、

『会計用語+会計基準』

で調べてみましょう。

例えば、

『繰り延べ税金資産 会計基準』

で調べると、以下のようにGoogle先生も誤った会計用語の使用があれば修正したうえで検索してくれますし、

正しい用語が掲載されている会計基準もヒットします。

会計基準には用語の定義が載っていますので、その記載を確認するのも誤りを防ぐ1つの手段かなと思います。

まとめ

今回は、日経新聞を例に、会計用語の誤りについての解説記事を作ってみました。

細かい点ですが、誤りがあると評価の下がってしまうポイントの一つです。

もちろん記者の方だけではなく、仕事で会計用語を使うときなど、少し意識してみても良いかもしれません。

ではでは。