【監査法人への就職活動】監査法人を選ぼう!-IPO編-

監査法人を選ぼう(2)IPO編

さて、今回も監査法人選びに多少のTipsを与える観点で、記事を書いていこうと思います。テーマはIPOです。

監査法人への就職を目指している受験生の中にはIPOに興味のある方も何人もいらっしゃるかと思います。

よく言われる、クライアントとの距離が近い、アドバイザリー的な業務もできるといったメリットは「少なくとも自分の場合は」事実です。

また、監査一連の手続きを早めに習得することが出来るので、ベンチャーへの転職などについてもかなり有利かと思います。

もちろん、IPO部署のベースは監査ではありますが、一連を経験しているか、経験していないかの差はかなり大きいと思います。

(実際、僕もIPOをメインとした部署にいますが、IPO関連の業務は学ぶところが多く非常に満足しています。)

今回はIPOに興味あり、という受験生の方のために、IPO関与社数という観点で監査法人の情報をまとめていきます。

そもそもIPOってなあに?

ご存知の方ももちろん、いらっしゃるかと思いますが、まず、お話の前提として、そもそもIPOとはなんでしょうか?

Initial Public Offeringの略。一般的には、(新規)株式公開とも言われる。少数株主に限定されている未上場会社の株式を証券取引所(株式市場)に上場し、株主数を拡大させて、株式市場での売買を可能にする。
新たに株券を発行して株式市場から資金を調達する「公募増資」や、以前から株主に保有されていた株式を市場に放出する「売出し」がある。
上場した企業は株式市場からの資金調達が可能になり、会社の知名度の向上によって、優秀な人材の確保が可能になるなどのメリットがある。一方で、投資家保護の観点から定期的な企業情報の開示(ディスクロージャー)が義務付けられる。

野村證券証券用語解説サイトより引用

なるほど、これだけでは良く分かりません。

私もざっくりとした説明を追加すると、IPOとは、社長や親会社、ベンチャーキャピタルなどをはじめ、限られた人間が保有していた会社の株(原則、非公開)を、誰でも保有できるように市場に広く公開することです。その株は証券市場でリアルタイムに値が付き、社長などは、大きな資産や名誉を得ます。

このように、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーになることで、社長だけではなく、同時に莫大な数の利害関係者が生まれ、その保護も会社が責任を負わねばならないのです。

この際の利害関係者保護の一環として、監査法人としては、独立した立場から、毎期の監査、そして毎四半期の四半期レビューを行い、会社の財務報告に保証を与えるわけです。

もちろん、IPO後だけではなく、IPO前にも上場後と同様の手続きが求められることとなり、監査法人は監査や四半期レビュー、そしてその前提となる調査を行ったりします。

会社も監査対応に不慣れな人員も多い中、監査法人内部の人間としても、どうすれば誤りのない会計締めが出来るか?開示で誤っている点はないか?統制で甘い点はないか?等、独立した立場ながらも伴走し、上場を目指していきます。

私も何社かのIPOに関与している人間ですが、上場の際、自分たちが見てきた財務報告書類が世の中に出た瞬間は本当に感動しました。

もし、IPOについて事前に詳しく知りたいということであれば、以下の書籍をお勧めします。

「IPOは野村に聞いてみよう」は、証券会社が書いている本ですが、何社かのIPO経験企業へのインタビューなども載っており、実務やイメージがわかない方でも、すんなり入ってくる本かと思います。

また、監査法人では実際にどんなことやるの?ということが気になる方は、ちょっと実務より過ぎかもしれませんが、新日本から出版されている「IPOをやさしく解説!上場準備ガイドブック」がおすすめです。

ぜひ、IPO関連に内定をもらえた!などがあれば読んでみてください。

情報の前提

では、ここから本題です。

今回は、以下の内容をまとめていきます。

「2014年~2019年直近までのIPO関与社数」

上場した市場に関しては、特に制限を設けずに見てみようかと思います。

また、テクニカル上場は実質的に株式新規公開とは言い難いことから、対象社数から除くこととします。

(注)テクニカル上場とは

上場会社が非上場会社と合併することによって解散する場合や、株式交換、株式移転により非上場会社の完全子会社となる場合に、その非上場会社が発行する株券について、上場廃止基準に定める流動性基準への適合状況を中心に確認し、速やかな上場を認める制度です。

JPXのHPより引用(https://www.jpx.co.jp/glossary/ta/313.html

情報ソース

例によって、情報ソースをちょっとだけ公開しておきます。

ちょっと老害感がありますが、専門家となる以上、人に教えられることだけでなく、自分で一次情報を見つけ、そして調べられるような人間になってほしいと思います。

東京証券取引所への上場においては、新規上場企業は日本取引所グループの「新規上場会社情報」というページに掲載されます。

IPOの流れについて本当にざっくりというと、

上場申請→(1~2ヶ月)→上場承認→(1ヶ月程度)→上場

という流れです。上記のページには上場承認の段階で記載がされます。

この際、IPOを申請する企業は、

「新規上場申請のための有価証券報告書(=Iの部と呼ばれます、有価証券上場規定によるもの)」という書類を証券市場に、

「有価証券届出書(金商法で習いましたよね)」という書類を金融庁(財務局)に、

提出するのですが、上記のページでは、このIの部という書類に添付されている監査報告書から関与している監査法人を確認することが出来ます。

その他の市場については福岡証券取引所(Q-Board)、札幌証券取引所(アンビシャス)、名古屋証券取引所(セントレックス)などがあるのですが、違いや上場に関する情報についてはぜひ自分で調べてみてください!

なお、以下の集計においては基本的に全ての市場を含めています。

監査法人別IPO関与社数 2014年

では、まずは2014年です。

監査法人名2014年
トーマツ28
あずさ22
新日本18
太陽4
三優1
あらた1
優成1
京都1
E&Y1

トーマツが28社とNo.1ですね。特に大型外食企業、すかいらーくの再上場や、介護用ロボットベンチャーのCYBERDYNEの上場(今ではだいぶ落ちてしまいましたが、マザーズの時価総額ランキングでは常にかなり上位でしたね。)などを手掛けています。

新日本では、リクルートホールディングスの上場もあり、大型のIPOが実施された年ともいえるでしょう。また、マザーズの時価総額上位の弁護士ドットコムもこの年、新日本が監査をして上場しています。

また、アーンストヤングと新日本を分けていますが、アキュセラという製薬会社(現、窪田製薬)の日本証券取引所上場に一役買っているので、その関係であえて分けています。

あずさでは、アドネットワークビジネスのフリークアウト、アプリ制作のイグニスの上場などが個人的には注目どころです。

中堅どころでは、三優がフルッタフルッタの上場などに関与していますね。

 

監査法人別IPO関与社数 2015年

監査法人名2015年
新日本26
トーマツ23
あずさ22
東陽5
太陽3
三優3
あらた3
優成3
京都1
かがやき1
清友1
東海会計社1

2015年においては、みんなのウエディング(トーマツ)という会社が上場から実に半年で不正が発覚してしまい、市場全体としてはIPOに対して、そして各監査法人は少し冷ややかな目で見られることとなります。2015年では、新日本がトーマツを抜かして26社とNo.1です。
関与しているのは、今はスマートニュースで有名なGunosyや、ジグソー、コンタクトレンズなどの販売をしているメニコンなどです。

トーマツの関与はアプリ紹介メディアなどを運営しているAppbankや、ファッションブランドのステュディオスなどです。ユナイテッドアローズやファーストリテイリングなどもトーマツが監査しているようなので、トーマツは実はファッション業界に強いのかもしれません。

また、あずさにおいては、大型のIPOとして日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命がありました。個人的にはメタップスの上場(現在はあらたに移管)なども気になります。

中堅どころでは、東洋監査法人が翻訳事業を運営するロゼッタなどの上場に関与しています。

 

監査法人別IPO関与者数2016年

監査法人名2016年
新日本28
トーマツ23
あずさ13
太陽8
三優3
あらた3
東陽2
仰星2
優成1

2015年に引き続いて、新日本が28社とNo.1です。
串カツ田中(新日本)の上場などが個人的には注目でした。串カツ田中好きだからね。
また、コメダ珈琲のコメダホールディングスも新日本が担当しています。外食に強い年だったのでしょうか。

2位のトーマツはコンサルティング会社のベイカレントコンサルティング、アドネットワーク企業のアイモバイルなどを担当しているようです。

3位のあずさでは、ゲームアプリで有名なアカツキ社などを担当しています。

また、言わずもがなのLINEアプリを運営しているLINEの上場も2016年です。この年、LINEは東証一部に直接上場し、あらた監査法人が手掛けています。同時にニューヨーク証券取引所にも上場をしています。
あらたが外資に強いといわれるのはこういうところが所以なのでしょうか。

監査法人別IPO関与社数2017年

監査法人名2017年
トーマツ28
新日本25
あずさ17
太陽6
三優3
東陽3
あらた1
仰星1
A&A1
BDO
USA,LLP
1
シドー1
銀河1
千葉第一1
大有1

2017年においては、新日本を抜き、28社と再びトーマツがNo.1になっています。

貸会議室のティーケーピー(トーマツ)や、UUUM(新日本)など、マザーズ時価総額上位企業の上場などが目立ちます。その他メガベンチャーとして名高いPKSHAテクノロジー(あずさ)や、Fintech銘柄として名高いマネーフォワード(トーマツ)などの上場もこの年です。

 

監査法人別IPO関与社数2018年

監査法人名2018年
新日本29
あずさ25
トーマツ21
太陽6
あらた3
三優1
東陽1
優成1
京都1
A&A1
ひびき1

2018年においては、29社と再び新日本がNo.1です。やはり注目すべきはフリマアプリ、メルカリ(新日本)の上場などでしょう。株価はかなり下がってしまいましたが、依然としてマザーズの時価総額1位は譲っていません。(2019年8月現在)

また、その他、ラクスル(新日本)も以前としてかなり高い時価総額です。

将棋アプリを運営し、その他AIサービスを展開しているHEROZ(トーマツ)は上場時の初値が公募価格の11倍程度と高騰し、1995年以降のIPOにおいて、最も公募初値倍率の高い株となりました。

この年のIPOは現在もマザーズの時価総額の上位を占めている会社の上場が目立ちます。

 

監査法人別IPO関与社数2019年

監査法人名2019年
あずさ10
新日本10
トーマツ8
太陽6
A&A2
仰星2
三優2
あらた1
京都1
大有1

さて、2019年7月時点の実績です。

現状では、以上の通りです。あずさ、新日本、トーマツと安定した三つ巴になっているのが分かりますね、そして太陽がかなり実績を伸ばしていることが個人的にはかなり注目です。

8月が過ぎ去ったら、また、状況を更新しますね。

まとめ

監査法人名2014年2015年2016年2017年2018年総計
新日本1826282529126
トーマツ2823232821123
あずさ222213172599
太陽4386625
三優1333111
東陽523111
あらた1331311
優成13116
その他2427318

やはりIPO関与件数という観点においては、新日本が安定しているイメージですね。今回の記事のまとめです。

結論として、IPOが盛んなのは、新日本、トーマツ、あずさ、そして中堅どころだと太陽に行くのがいいようです。

POINT・安定して5社以上のIPOがあるのは新日本、トーマツ、あずさ、太陽の4法人

・新日本は5年中、3年で1位

・2019年の実績は7月時点で新日本、あずさが1位、ただしトーマツと僅差であり、三つ巴状態

 

記事リンク

2014年~2018年のIPOの実績について、まとめました。
監査法人別、主幹事証券会社別、時価総額別にソートが出来るので、是非参考にしてみて下さい。