有価証券報告書における継続監査期間の開示について

こんにちは。会計士KOです。

今回は監査法人の「継続監査期間の開示状況」という記事を見つけたので、私見と考察を記しておきます。

そもそも有価証券報告書における継続監査期間の開示ってなあに?

「そもそも有報における継続監査期間の開示って・・・?」となる人もいると思いますので、ざっくりそもそものご説明です。

2019年1月付の内閣府令第3号(企業内容等の開示に関する内閣府令)により、有価証券報告書の記載内容をガラっと変えるような改正が入りつつあります。

各印刷会社が出している記載例も大きく変わり、普段、あんまり経理の状況以外を見ていないというような会計士はかなりビックリしたのではないでしょうか。

そして、今回の記事では、そのうち、監査法人の継続監査期間の開示に関する改正を取り上げます。

改正内容としては内閣府令に記載の以下の(2)の通りです。監査法人の継続監査期間について、開示を行うとありますね。

3.情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組

本改正では、情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組への対応として、有価証券報告書において次の開示を求めることとしています(第二号様式 記載上の注意(56)a(b)、(56)d(a)ii、(56)d(c)、(56)d(e)、(56)d(f)ii、(56)d(f)vなど)。

(1)監査役及び監査役会等の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況及び常勤の監査役の活動等)

(2)監査法人による継続監査期間

(3)監査公認会計士等を選定した理由・評価(選定方針等を含む。監査公認会計士等又は会計監査人の評価を行った場合、その旨及びその内容)

(4)ネットワークファームに対する監査報酬等を、監査証明業務に基づく報酬と非監査業務に基づく報酬に区分して記載

(5)監査役会が監査報酬に同意した理由

金融庁HPより引用)

この点、監査法人による継続監査期間については、従来開示を行う必要はありませんでした。

趣旨としては、独立性が前提となるような会計監査において、企業と監査法人の癒着や慣れ合いなど、そういった独立性の阻害要因がないかを牽制する意味があると解します。

同様の旨は、2018年に公表された金融審議会のディスクロージャーワーキンググループの提言集に記載されていますが、やはり、監査法人のローテーションを強制する制度がない中で、継続監査期間の開示は重要な情報であるとの提言がなされており、当該内容を受けた結果になっているようです。

では、実際の開示について見ていきましょう。

実際の開示について

本改正は、2020年3月期以降の有価証券報告書から適用になるのですが、早期適用も可能となっており、すでに2019年3月期の有報において、83社が早期開示を行っているようです。

そのうち、5社は51年以上、同じ監査法人とのことで、実際に調べてみました。

以下、2019年3月期の有報時点で、早期開示を行っている会社に限った情報なのでご注意ください。

3位:51年間(タムラ製作所:新日本、関西電力:トーマツ、デンソー:トーマツ)

3位は同率で51年間の会社が三社いました。1958年から監査していることになりますね。

いずれも超老舗の大企業です。

2位:58年間(三井不動産:あずさ)

2位は、継続監査期間58年間の財閥系デベロッパーの三井不動産で、監査法人はあずさ監査法人です。

1位:68年間(味の素:新日本)

③ 会計監査の状況

1.監査法人の名称

EY新日本有限責任監査法人

2.継続監査期間 1951年以降。

(味の素、2019年3月期有報より引用)

1位は継続監査期間68年間の味の素で、監査法人は新日本監査法人です。

現時点で開示されている最長の監査継続期間です。実に1951年から監査していることになりますが、68年前の監査ってなんだ・・・?

という気持ちでいっぱいです。歴史が凄いですね・・・

以上が、現時点で開示されている最長の継続監査期間と監査法人の対応です。

確かに独立性という観点の牽制にはなるのかもしれません。長期間の継続監査は、十分な知見がたまる一方で、最も大事にすべき独立性が失われていたら監査制度そのものがくるってしまいますからね。

(なお、別件として、最近なにかと話題になっているGE(ゼネラルエレクトリック)ですが、KPMGが100年以上監査しているとのことです。恐ろしい・・・)

開示の年数はいつから?起算方法は?

では、実際の開示を見たところで、今後、開示する会社はどうやって年数を計算、記載していけばよいのでしょうか。

この問に対して、改正に対するパブリックコメントを確認したところ、同様の問いが寄せられていました。

~パブリックコメント~

継続監査期間について、算定に関する考え方を示して欲しい。また、どの時点まで遡って継続監査期間を計算する必要があるか示して欲しい。証拠資料の散逸等のため遡って調べられる期間が限られる場合には、調査可能であった最長年数と実際の年数がそれ以上である可能性があることを記載した上で(例えば「10年以上」)、その翌年度以降に年数を加算する方法によるなど、実務上可能な範囲という理解で良いか。

この回答としては、以下の通りです。

~パブリックコメントに関する回答~

ご指摘の継続監査期間については、例えば、以下のとおり整理することが考えられます。
① 提出会社が有価証券届出書提出前から継続して同一の監査法人による監査を受けている場合、有価証券届出書提出前の監査期間も含めて算定する。
②-ⅰ 過去に提出会社において合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を継続して行っているときは、当該合併、会社分割、株式交換及び株式移転前の監査期間も含めて算定する。
②-ⅱ 過去に提出会社において合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の被取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を行っているときは、当該合併、会社分割、株式交換及び株式移転前の監査期間は含めないものとして算定する。

③-ⅰ 過去に監査法人において合併があった場合、当該合併前の監査法人による監査期間も含めて算定する。
③-ⅱ 提出会社の監査業務を執行していた公認会計士が異なる監査法人に異動した場合において、当該公認会計士が異動後の監査法人においても継続して提出会社の監査
業務を執行するとき又は当該公認会計士の異動前の監査法人と異動後の監査法人が同一のネットワークに属するとき等、同一の監査法人が提出会社の監査業務を継続して執行していると考えられる場合には、当該公認会計士の異動前の監査法人の監査期間も含めて算定する。継続監査期間の算定に当たっては、上記の整理も踏まえ、基本的には、可能な範囲で遡って調査すれば足り、その調査が著しく困難な場合には、調査が可能であった期間を記載した上で、調査が著しく困難であったため、継続監査期間がその期間を超える可能性がある旨を注記することが考えられます。
また、継続監査期間の記載方法については、「●年間」と記載する方法のほか、「●年以降」といった記載も考えられます。

なるほど、基本的には有価証券届出書提出以前の監査期間も含めて算定するようです。

ただ、やはり「監査」と記載されている以上は、監査意見が表明されている時点からの期間の算定であり、いわゆる上場のための準金商法監査契約など、意見が表明されていない段階の監査期間は含めないことが通常であると解します。

なお、最近上場したミンカブジインフォノイド社の開示を確認すると、継続監査期間は7年となっていました。

この点、同社は2013年に大型の資金調達を行っており、資本金金額が5億円を超過しています。そう考えると、同時点から会社法監査は行われていたはずですので、法的に意見表明が行われている期間においては、計算の対象に含めていると考えられますね。

違ってたらご指摘くださいませ。

また、M&Aの影響も加味して、合併した場合などについても合併前の監査法人による監査期間も含めて算定するとのことです。

更に、実際の年数の調査が出来ない場合に関しては、当該旨を注記記載することも考えられるとしています。

調べていたところ、以下のような実際の記載も見受けられました。

③ 会計監査の状況

a.監査法人の名称

EY新日本有限責任監査法人

b.継続監査期間

36年間

上記継続監査期間は、当社において調査可能な範囲での期間であり、実際の継続監査期間は上記期間を超えている可能性があります。

(シネケンホールディングス、2019年3月期の有価証券報告書より引用)

難しい場合は、ちゃんとその旨を開示してね、という趣旨ですね。

まとめ

今回は、継続開示期間の開示に関するTipsを書きました。

私はIPOクライアントなどを担当していることが多いので、そもそも設立から数年なんて会社さんも多い中、味の素の継続監査期間が68年間というのがかなり驚きです。

2020年3月期以降の有報から強制適用です、ご留意ください。